迷っている小規模・事業主向け

インボイス制度で肝(キモ)となるお話―「仕入税額控除」とは―

さて、今回「インボイス制度」の導入にあたって、一番キモとなっている部分がこの「仕入税額控除」ではないでしょうか。

自分がどの立場でビジネスを行っているか、販売先である最終消費者(エンドユーザー)が領収書やレシートを必要とするか・・。

などで「仕入税額控除」が適用できるか、そもそもインボイスに登録する必要があるのかが変わってきます。

ここで、「消費税」というのは誰が払って誰が納めているのかを今一度確認しておきましょう。

消費税を支払う人・納める人

消費税の支払者=商品の購入者
消費税の納税者=売り上げた商品に携わった事業者

ここはしっかりと押さえておいてください。

それでは、小売業を営むA社の目線から販売の例に沿って「仕入税額控除」について見ていきたいと思います。

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仕入元B社・外注先C社

商品の仕入元B社

課税事業者であるA社は、仕入れとしてB社から多くの商品を仕入れて、お客様たちに販売しています。

1,000円の商品をお客様に現金販売すると、消費税として100円を預かるので、売上金額として1,100円を計上します。

本来、お客様から預かった消費税100円はそのまま国に納付するので、実質、現金100円はA社のものにはなりません。

しかし、この1,000円の商品を売るために、B社から仕入れた500円という「仕入れ代金」というものがありました。

つまり、B社に50円の消費税を含めた550円を支払っているわけです。

そこで、お客様から預かった消費税100円から仕入れ分の消費税50円を差し引きます。

この差し引かれた50円が「仕入税額控除」となるわけです。

この商品が最終消費者に渡るまでに携わったA社とB社で、預かった消費税100円がそれぞれの負担分に応じて国に納められたわけです。

この商品1点を売り上げて納めるべき消費税合計は100円
商品の購入者が、消費税100円を支払う
A社が、50円を国に納める
B社が、50円を国に納める

サービスの外注先C社

さらに、重くて大きい商品も販売しているA社は、お客様の要望によってご自宅まで当日配送するサービスも行っています。

ここでは分かりやすく、商品代金に一律「+1,000円(税込み1,100円)」で配送を行っているとします。

つまり、今回購入した商品を配送込みで購入すると、消費税込みで「2,200円」をお客様から頂きます。

A社は、配送に関して、配送専門のC社にお願いしていました。

いわゆる外注先(パートナー業者や下請け業者とも言われる)となるC社へは、配達1件あたり500円、つまり消費税50円と合わせて550円を支払っていました。

今回の例だと、預かった消費税200円から差し引かれたB社の50円とC社の50円が「仕入税額控除」となります。

この商品1点を購入し、配送して納めるべき消費税合計は200円
商品の購入者が、消費税200円を支払う
A社が、100円を国に納める
B社が、50円を国に納める
C社が、50円を国に納める

インボイス登録状況によっては・・

ここまでで、配送込みの商品は、2,200円で売れ、消費税として購入者からは200円を預かった状態となりました。

さて、B社は多くのお店に商品を卸している大きな会社で、元々課税事業者でした。

A社はお客様に商品を販売して預かった消費税100円からB社へ支払った分の50円を差し引いて計算していました。

しかし、C社に関しては社員2人だけの小さな個人経営の会社で、元々免税事業者として長年事業を行ってきました。

当初はインボイスが関係なかったので、A社は、C社に支払っている100円から同じように50円を差し引いて計算していました。

インボイスが始まる前、上の例のような取引があった場合、消費税の支払者と消費税の納税者の「本来の姿」は以下のようになります。

商品の購入者が、消費税200円を支払う
A社が100円を国に納める
B社が50円を国に納める
C社は50円を売上として処理する

預かった消費税が200円なのに、納めている消費税は150円・・・合わない。

そう、一目瞭然ですがC社が本来納めなければならない50円の消費税は、免税事業者であるC社にとっては納付する必要がなく、売上の一部となってしまうのでした。

ここで、国の真意を確認しておきましょう。

国としては、この売上で発生した消費税200円をすべて回収したい・・ただそれだけなんです。

つまりは、「取りこぼしをなくしたい」し、そのためには「消費税を誰が負担するにしても構いませんよ。(消費者でもいいんですよ)。きっちり払ってくれればね」というわけです。

この「国の真意」は、これまで免税事業者だったC社のような事業者だけに伝えているわけではなく、A社が頑張って負担してもいいし、何なら消費者に価格転嫁して消費者が負担してもいい、と言っているわけです。

では、インボイスが開始された後、すべての消費税を直接預かるA社は、この消費税をすべて納めるためには、どのように対処したらよいのでしょうか。

順番に見ていきましょう。

A社の選択肢は4つ

C社との取引をやめる

A社はまず、この方法を考えるでしょう。

なぜなら、これからはC社が本来支払うべき消費税をA社が負担しなければならないからです。

C社に支払っていた分の消費税を控除できていたこれまでとは違い、今後A社はC社に消費税込みで支払っているにも関わらず、再度その同じ金額を消費税として国に納付しなければならないのです。

それであれば、ヤマトや佐川のようなインボイス登録が証明できる課税事業者との取引に変えよう・・と思いますよね。

ただし、A社の付き合いの範囲に配送会社がいなかった場合、新たに配送を請け負ってくれる会社と契約するまでは、配送サービスを一時中断する必要性が出てくるかもしれません。

『一時的なサービスの低下』を余儀なくされる可能性が十分にありそうです。

ガイドマン
現在、声を上げてインボイスに反対しているフリーランスや個人事業主の方は、C社のようになる状況を恐れているわけですね。

C社への支払金額を下げる

C社がインボイス登録しないのであれば、A社がC社に支払う消費税を「仕入税額控除」として計算できません。

それであれば、現在A社がC社に支払っている1件単価500円(+消費税50円)を「消費税込みで500円だけ」などと支払金額を下げる対策を取るでしょう。

そうすると、先の例で言えば以下のようになります。

商品の購入者が、消費税200円を支払う
A社が150円を国に納める
B社が50円を国に納める
C社の処理はない

C社の売上減少だけであり、消費税はすべて国に納められます。

ガイドマン
これも、C社の立場の人からすれば、やはり売上の減少につながると反対の声を上げています。

消費者に転嫁する

さて、意外にも話題にならないのが、このパターンではないでしょうか。

つまり、一般消費者も割を食う場合があるのです。

A社がどうしてもC社との取引を外せず、消費税の支払いが増える分を販売価格に転嫁したとします。

配送料を1,000円(税込み1,100円)から1,100円(税込み1,210円)に値上げしました。

A社はこれまで、配送料1件につき50円の消費税支払いで済んでいたのが、「仕入税額控除」が適用できないため、今回の値上げ分も含めた消費税110円をすべて支払わなくてはならなくなりました。

支払う金額は60円増えましたが、売上金額を1,000円から100円値上げしたので、何とかやっていけるという判断ができるでしょう。

販売側の事業者たち(ここではA社とC社)は痛い思いをせず、消費者が増税分として負担する構図となっています。

しかし、A社の立場からすれば価格競争という点から見ても、『値上げ』という判断はなかなか下せないかもしれません。

A社が泣く

これは、上記の消費者への価格転嫁をあきらめたA社が最後に取る手段となります。

つまり、すべての負担を受け入れる格好ですね。

値上げもせず、外注先の免税事業者の継続も許容する・・・

A社にとっては選択肢からは真っ先に除外したいでしょう。

もちろん、C社の立場よりA社の立場の方が有利ですし、上です。

インボイス登録しない事業者との契約を打ち切るだけですから、C社の業種が特殊な場合を除き、この『泣く』を選ぶA社は、ほぼ存在しないと言っていいでしょう。

取引先の力関係で対応は様々

インボイスの登録は任意なので、A社が外注先や仕入先への登録強制はできません。

法に触れる?

A社が自社の有利な立場を利用して何の前触れもなく消費税分をカットしたり、インボイス登録を迫るような行為は法律に触れる可能性があります。

しかし、力関係から言えばどうしてもC社の立場は弱いので、「あっちの業者さんはインボイス登録したみたいよ。おたくは???」みたいなあからさまに登録を促される場合もあるでしょう。

加えて、次第に取引を減らされていくなど、実質のプレッシャーをかけられる可能性もあります。

C社の対応としては、以下のようになっていくでしょう。

インボイスに登録する

インボイスに登録すると、免税事業者の特権である消費税の益税はなくなる上、今後は売上が芳しくなくても消費税を納めていかなければなりません。

それでも、『インボイスに登録し、課税事業者になる』と考えるC社の根底にある思いは『取引先との繋がりがあってこそ』となるでしょう。

C社にとっては、一番厳しい選択かもしれませんが、今まで通り契約を結んで事業を継続したい、と考えるならこの選択になると思います。

5年間の経過措置の間は免税事業者でいる

「仕入税額控除」は、インボイス制度導入後の5年間は、経過措置が用意されています。

(2026年9月30日まで)仕入金額の「80%」を控除できる

(2028年9月30日まで)仕入金額の「50%」を控除できる

これらは、A社が仕入れや委託のために「免税事業者」に支払う消費税分の80%や50%を「仕入税額控除」として計算していいよ、というものです。

つまり、免税事業者であるC社は、A社やそれ以外の取引先との協議は必要となりますが、経過措置期間は免税事業者のままで事業を行い、経過措置期間はそれぞれ仕入税額控除できない分をC社が負担する形となります。

上の画像は、弊社が免税事業者を選択する意思を伝えた際に、取引先と交わした電子契約書の一部です。

内容に、『それぞれの経過措置期間は、仕入税額控除できるパーセンテージ分を支払う』旨が記載されていますね。

もちろん、5年を過ぎると免税事業者との取引で控除できる消費税分は0になりますから、それ以降は消費税分を除いた金額しか払われなくなります。

業績が向上するまで免税事業者のままでいる

これは、『C社が決めるタイミングで課税事業者になる(もしくは事業を続ける限り免税事業者のままでいる)』と言う意味です。

免税事業者のままで、A社との取引がなくなろうが、他の取引先から撤退されようが、C社は我が道を行くパターンですね。

免税事業者のままでも大丈夫?

インボイス登録は強制ではないので、免税事業者のままで事業を継続する判断を下しても全く問題ありません。

もし、販売先が以下のような消費者や企業だけであれば、自社は免税事業者のままでもいいかもしれません。

インボイス登録の必要はない?

  • 一般消費者(エンドユーザー)
  • 免税事業者
  • 消費税の支払いに簡易課税制度を採用している事業者

つまり、販売先が取引に「仕入税額控除」を必要としていない方々であれば、自分(自社)も課税事業者になる必要はありませんね。

まとめ仕入税額控除

今回は、「商品を販売する企業」と「仕入元の企業」の両方から「仕入税額控除」とはどういうものかを見てきましたが、仕入元などの免税事業者が悲鳴を上げている理由がお分かりいただけたと思います。

インボイスが導入される前から消費税を納めてきた企業にとっては、「仕入税額控除」を適用できるかどうかは自社の利益に直結します。

一方、免税事業者が免税事業者であり続けるためには、『消費税なんぞ支払わん!』という覚悟だけが必要かもしれません。

インボイス登録をして課税事業者になっても、登録を拒否して益税だった消費税分が減収になっても『自社の売上減少』は避けられないでしょう。

インボイス制度が開始して最初の3年間は「80%の仕入税額控除」により、販売側もこれまでの取引から控除できない分だけを減らすだけで契約を継続してくれる可能性が高いです。

この間に『思い切って廃業する』もしくは『敢えて法人化して上を目指す』、『元々法人ならさらに上を目指す』と行く末を思案する時間に充てていただくのがいいのかな、と思います。

-迷っている小規模・事業主向け