「ひとり社長」は、業種・業態・売上規模によっては、「インボイスに登録しないほうがいい」と提案できるケースもあり、戦略的な選択が求められる制度ともいえるのです。
それでも、「インボイスに登録」した場合は、登録後の経費計算で領収書の扱いをどのようにしたらよいのかが分からない方も多いでしょう。
結論から言うと、インボイス導入後の現在では、導入前と同様に、記載内容を満たしていれば領収書ではなくレシートを保存しても問題ありません。
普段からレシートを発行している飲食店や小売店などの立場から見ても、わざわざ領収書などを書きたくないでしょうし、『インボイスに対応した領収書を別途用意する』、『領収書を手書きするときに毎回インボイス登録番号を書く』のもお店側としては非常に煩雑となるのでやりたくないでしょう。
レシートを発行するこれらのお店では、レシートを発行するレジの調整だけでインボイス対応を済ませたいはずです。
インボイスに登録した「ひとり社長」の法人が、経費として落としたい飲食店での食事や小売店での事務用品購入などに際し、インボイス導入前から領収書をきっちりもらっていた場合は、少しこれまでの経費書類の保存方法を見直してみるのはいかがでしょうか。
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ひとり社長の不安-領収書とレシートって何が違う?-
「いつも行く飲食店で、これまでは手書きで領収書をもらっていましたが、インボイスに向けて『紙の領収書をやめて、レシートで対応する』とのことです。なぜこういったことになるのでしょうか?レシートでも大丈夫なのでしょうか?」
こういった疑問を持たれる方が多いのですが、まず、飲食店での経費の証拠はレシートでも領収書でもかまいません。
なぜなら「日付」、「店名」、「内容」、「金額」が書いてあれば、レシートでも十分だからです。
これはインボイスには関係なく、これまでとも同様で、レジでわざわざ「領収書をください」とお願いする必要はありません。
今回、お店側が手書きの領収書をやめたのは、おそらく『インボイスを機に、お店側も効率化したい』という考えだと思います。
手書きの領収書によるインボイスへの対応も、もちろんできるのですが、従来の領収書の用紙には「インボイスの登録番号」が入っていません。
この登録番号(T+13桁)を手書きするのは非常に大変です。
かといって、領収書の用紙を別途つくるのもコストがかかります。
それならば、いっそ紙の領収書を廃止して、レジから出るレシートに統一したほうが効率的です。
また、紙の領収書のままにして、インボイスの番号のはんこをつくって押すという対応も考えられますし、実際、はんこの受注が相次いでいるという話もよく聞きます。
ただ、問題もあります。
事前にお店側がはんこを押した領収書を作成しておくのも非効率であり、もしお客様に言われたら手書きで書いた後に最後にインボイスの登録番号のはんこを押すという流れにしても、お互い手間や余計な時間がかかります。
それであれば、レシートをもらったほうがいいですが、レシートにインボイスの登録番号を入れるにしても、「レジの入れ替え」や「システムの変更」などのコストがかかります。
お店側としては、従来のレシートにインボイスの登録番号のはんこを押すという対応で処理していくケースが増えていくのではないでしょうか。
とにかく、経費にする分には、レシートでも領収書でもかまいませんので、これまでどおり受け取っておきましょう。
いずれにしても、『インボイスの登録番号が記載されているかどうかという話』は自社(自分)の消費税の支払い方法が「原則課税」の事業者だけで、「簡易課税」や「2割特例」を設定していれば、気にする必要はありません。
消費税の支払い方法は以下をご覧ください
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というわけで、これまで飲食店で領収書をわざわざもらっていた場合は、レシートでの管理をおすすめします。
レシートと領収書の違い
では、レシートと領収書の大きな違いとは何でしょうか。
それは、宛名の有無です。
レシートには宛名がなく、領収書には別途、手書きで宛名を記載してもらえます。
レシートと領収書それぞれの主な記載内容は、以下のようになります。
レシートの記載内容
- レシートの発行者・店の名前
- 取引年月日
- 取引(商品名など)の内容
- 金額
領収書の記載内容
- 領収書の宛名
- 領収書の発行者
- 取引年月日
- 取引(商品名など)の内容
- 金額
実は、以下の業種との取引は『宛名がないレシートや領収書でも経費として計算していいですよ』と決められています。
宛名のないレシートでもOK
- 小売業
- 飲食店業
- 写真業
- 旅行業
- タクシー業
- 駐車場業
これらは、不特定多数に対して商品の販売やサービスを提供している事業者の一覧になります。
例えば、飲食店を経営しているお店で、すべての人に宛名を聞いて領収書を出すのは、手間や費用がかかります。
そのため、小売業や飲食店業、タクシー業など、不特定多数を相手に商売をしている業種に対してお金を支払った際には、宛名がなくても仕入税額控除を受けられます。
つまり、宛名のないレシートや宛名を書いていない領収書でも問題はないわけですね。
このような事業者が発行しているレシートは、「簡易適格請求書(簡易インボイス)」といいます。
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以下の国税庁が公開しているインボイスの要件を満たす必要はあるので、もらったレシートの内容は目を通しておきましょう。
そう、もらうのはレシートでも領収書でもどちらでもいいですが、経理室だけではなく自分自身もある程度インボイスの要件を把握しておく必要があるわけですね。
3万円未満の取引
他にも、インボイスの要件を満たしていなくても問題ない取引があり、それが「3万円未満」の以下の取引になります。
インボイスが不要な取引
- 飲食の自動販売機
- コインロッカー
- コインランドリー
- 銀行のATM
- 電車やバスの運賃
「代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置のみで、代金の受領と資産の譲渡等が完結するもの」は、インボイスを保存する必要がありません。
一方、似たような自動機による取引でも以下はインボイスの要件が必要となります。
インボイスが必要な取引
- 券売機
- コインパーキング
- セルフレジ
券売機は、飲食店の食券が思い浮かびますが、券が出てくるだけで食事の提供は別なので、インボイスが必要です。
食べ終わったらレシートや領収書をもらいましょう。
少額特例
「少額特例」とは、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存を不要とし、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで「仕入税額控除」ができる制度です。
一般的な個人事業主や中小法人に対象者が多く、レシートや領収書がなくても、「出金伝票の作成」などの代替えも可能です。
「少額特例」を適用するには、以下の条件を満たす必要があります。
少額特例の条件
- 基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5千万円以下である事業者であること
「基準期間」は、法人であれば前々期、個人事業主であれば前々年でしたね。
「特定期間」は、前期(もしくは前年)の上半期と考えてください。
つまり、2年前の売上高が1億円以下、または1年前の上半期が5000万円以下という条件になります。
「少額特例」の期限は、2029年9月30日までとなっています。
少額特例のメリットは、インボイスの保存が不要となるため、事務負担が軽減される点です。
レシートと領収書の保存期間
受け取ったレシートや領収書が「簡易インボイス」の場合の保存期間は、以下のようにルールが決められています。
交付した日の属する課税期間の末日の翌日から、2ヶ月を経過した日から7年間
「課税期間」という単語はよく出てきますので、ここでも書いておきましょう。
課税期間 | 個人 | 法人 |
---|---|---|
消費税の確定申告の対象となる期間 | 1月1日~12月31日 | 事業年度 |
つまりは、個人・法人で違いはあれど1年間の事業年度を指します。
例を挙げると・・・
同じ期間の12月1日に発行した「適格簡易請求書」も2032年6月1日まで保存しますが、その期間は約7年半になります。
まとめレシートと領収書
飲食店やタクシーなどでわざわざ領収書をもらっていた方は、レシートでも問題ありません。
むしろ、領収書で宛名がない場合は税務調査で指摘される可能性が高いので、レシートの方が信用度が高いです。
レシートは「簡易インボイス」とも言われて、インボイスに必要な記載事項が決まっています。
もらったレシートにインボイス登録番号がなかったり、消費税の記載にミスがあったりした場合は、無効なレシートになるので気を付けたいところです。