インボイスの導入では、「収入が減少する立場」が何かと注目されていますが、実は発注元である事業者にとっても「経理事務の負担が増える」と言う点でもっと注目を浴びてもいいかもしれません。
おおよその流れを見ていきたいと思います。
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取引先のインボイス対応の状況確認
インボイス制度では、原則としてすべての取引に関するインボイス(適格請求書)を保存しなければならないのですが、受け取る側は、受け取った請求書について以下のような作業が発生します。
- インボイス発行事業者の登録番号の情報収集
- 請求書にインボイスの登録番号が記載されているかを確認
- その番号が正しいかどうかを確認
- インボイスの記載要件を満たしているかどうかを確認
- 受領したインボイスはすべて保存
・・・経理事務の方々への負担は相当大きいと思いませんか?
登録番号の情報収集(1番)は、最初の一回で終わりますが、それ以降の流れは今後継続して発生します。
経理の人は請求書が届くたびに、いちいち番号を確認しないといけない...。
システムの改変やアップデートをするための費用もかかるでしょう。
取引先に請求書のフォーマットを統一してもらったり、登録番号が間違えていた場合は確認を取ったり、と。
取引先が何十社・何百社とあったら・・・・気が遠くなりますね。
これまでの経理作業と置き換わるわけではないので、インボイス対応の作業がプラスされるとなれば、それだけで作業量が膨大になるのは言うまでもありません。
増える作業の内、以下2つは時間をかけて社内フローを整理する必要があります。
- 受け取った請求書がインボイスかどうかを確認する作業
- インボイスとして処理した確認経路の管理作業
実は、免税事業者との取引も継続する場合は、以下の作業も発生します。
- [2026年9月30日まで]仕入税額の80%までは仕入税額控除ができる
- [2029年9月30日まで]仕入税額の50%までは仕入税額控除ができる
免税事業者との取引が続く場合、経過措置の5年間を各免税事業者とどのように取引するかによって、消費税分の支払い方法も変わってくるでしょう。
「仕入税額控除」については以下の記事をご覧ください
-
インボイス制度で肝(キモ)となるお話―「仕入税額控除」とは―
さて、今回「インボイス制度」の導入にあたって、一番キモとなっている部分がこの「仕入税額控除」ではないでしょうか。 自分がどの立場でビジネスを行っているか、販売先である最終消費者(エンドユーザー)が領収 ...
続きを見る
1年間で免税事業者からの仕入に関して消費税を100万円支払っていたのであれば、その内の80万円は「仕入税額控除」として処理ができるのです。
つまり、システムなどで自動で「仕入税額控除」を100%処理していた場合は、80%への処理へとシステム改変も必要でしょうし、インボイスとそれ以外の請求書や領収書を分けて対応しないといけないわけです。
手間の増え方を図解
上記リストの2番から4番までをもう少し詳しくフローチャートにしてみました。
まず、受け取った請求書に「インボイスの登録番号が書いてあっても書いてなくても常に確認作業が発生する」というのがよく分かりますね。
登録番号の有無だけで、その請求書が正解かどうかを判別できず、仮に登録番号が合ってたとしても、受領した請求書がインボイスの記載要項を満たしているかの確認が必要になります。
また、登録番号の記入なしが正しかったとしても、今度は免税事業者との取引で発生する経過措置での税額控除で管理しなければなりません。
上のフローチャートの行程を少なくするためには、取引先が「課税事業者か免税事業者か」、「課税事業者であれば登録番号は何か」というところがすぐに検索できるような、ちょっとしたシステムもしくはデータベースを持っておくと管理が多少楽になるかもしれません。
おそらく、インボイス登録番号の入った請求書等はシステムから出力される「既定のフォーマット」で提出してくる企業がほとんどだと思いますので、登録番号を書き間違えたり、書き忘れたりというのは少ないと思いますけどね。
それでも、『そういう可能性があるかもしれない』と警戒しながらの作業にはなるでしょう。
郵送はやめた方がいい
しかし、到着までの時間がかかりすぎるのと、何より毎回の切手代や封筒代が無駄です。
さらに、慣れないインボイス対応で修正が発生した場合など二度手間になります。
今後のインボイスでのやり取りや電子帳簿保存法によりメールやクラウドでの電子データでのやり取りは余儀なくされます。
現在、郵送で請求書などを送付している企業は、このインボイスのタイミングで電子でのやり取りに移行した方がいいと思います。
経費精算
次に思い浮かぶのは、「経費精算」でしょう。
これは、自社の社員たちが一時的に自分のお金を立て替えて、会社に必要な物を購入したり支払ったりするわけですが、経理においても受け取った領収書などがインボイスに対応しているか、経費として処理できるかを仕分けしなくてはなりません。
ここでは、主な経費処理を一覧で確認してみたいと思います。
項目 | インボイスがなくても仕入税額控除ができる | インボイスが必要 |
---|---|---|
交通機関 | 税込み3万円未満の電車、新幹線、バス、船舶などの公共交通機関 ※複数人の切符をまとめて購入して3万円以上はインボイスが必要 |
タクシーは「簡易インボイス」が必要 |
立て替え | 制度開始から6年間は「1万円未満の少額取引」はインボイス不要で仕入税額控除が適用できる。 ※ただし、以下に示す条件あり |
備品の購入などの立て替えは、インボイスが必要 ※簡易インボイスによる宛名無しでも問題なし |
出張旅費 | インボイス不要 | 出張や日当としての金額があまりにも大きい場合 |
切手 | 自分でポストに投函する場合 | 窓口に持ち込む場合 |
自動販売機 | 税込み3万円未満 | セルフレジ 券売機 |
つまり、上の条件に合う会社において、文房具店でボールペンを税込み110円で購入した社員から領収書をもらった時には、10円を税額控除できるというわけです。
これを見てもお分かりだと思いますが、経理事務の手間が増えるのはもちろん、経理に関係ない営業職などの会社員であってもインボイスの知識をある程度入れておかないと、自腹を切る羽目になる可能性があります。
自分には関係ないと思わず、社内でも共通の認識を持っておく必要があるでしょうね。
保存する書類
上記リストの5番にもあるように、インボイスを導入後は、インボイスに関する取引はすべて保存しておく必要があります。
取引に関する書類には、以下のようなものがあります。
- 請求書
- 領収書
- 納品書
- 仕入明細書
以下の「適格簡易請求書」の記事でも書きましたが、保存には以下のようなルールがあります。
-
適格簡易請求書
インボイス制度が始まってからは、仕入先や業務委託先から「適格請求書(インボイス)」をもらえないと、この取引で支払う消費税に対して「仕入税額控除」が適用できません。 しかし、不特定多数のお客様を相手に商 ...
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交付した日の属する課税期間の末日の翌日から、2ヶ月を経過した日から7年間
「課税期間」という単語はよく出てきますので、ここでも書いておきましょう。
課税期間 | 個人 | 法人 |
---|---|---|
消費税の確定申告の対象となる期間 | 1月1日~12月31日 | 事業年度 |
つまりは、個人・法人で違いはあれど1年間の事業年度を指します。
例を挙げると・・・
同じ期間の12月1日に発行した「適格簡易請求書」も2032年6月1日まで保存しますが、その期間は約7年半になります。
まとめ経理事務は本当にヤバい
ニュースなどで悲劇的に報じられていたのは、「フリーランス」や「個人事業主」など消費税の益税をカットされてしまう人たちでしたが、実は、フリーランスや中小企業に発注・委託している企業(課税事業者)の経理業務の方がよっぽど大変な作業になるでしょう。
今まで受領した請求書の処理が一律だったのに対し、インボイスにより厳格化された処理を求められるようになります。
余計な残業といらない仕事ばかりが増え、それでいて給料は据え置き・・。
自社社員たちの領収書等のもらい方や経費精算の面倒も見なければなりません。
当然ですが、インボイス対応をしたところでその企業の売上がアップするわけではありませんから、給料は残業時間とは反比例しますよね。
経理業務の膨張した作業量は、説明なども含めてニュースにしづらいため、もらうお金が下がって泣くだけのニュースに取り上げやすい人たちがクローズアップされるわけです。